こんにちわコノハです。
伝統工芸の世界で、日々黙々と作業を続ける
匠の姿を垣間見ると、ただ感心してしまいますね。
高知県土佐に「カゲロウの羽」と呼ばれる
極薄の手漉き和紙があるのを知ってますか?
はじめに
「カゲロウの羽」とは別名「典具帖紙(てんぐじょうし)」といい
手漉きで盛んだった美濃の技術が、高知県土佐へ明治初期頃に
伝わり、独自に発達した伝統技能の和紙です。
その厚みはわずか0.02mmと極薄!
1平方メートルあたり、たったの2g程度
(ティッシュペーパーの6分の1)しかないのに
丈夫で長持ちするという特殊な和紙です。
出典:土佐仁淀川.comより
極々薄3.5g/㎡ 一枚:297×210mm
工芸技術品「土佐典具帖紙」
人間国宝による手作業
ネットでみつけた解説では以下のように長い難解な説明書きがあり
素人には直ぐには理解できない深い工芸技術のようです。
伝統的な土佐典具帖紙の製作には、高知県仁淀川(によどがわ)流域で
生産される良質の楮とし、消石灰で煮熟(しゃじゅく:アルカリ性の薬品で
楮などを煮込み、繊維から不純物を取り除く工程)した後、きわめて入念な
除塵や小振(こぶり)洗浄を行い、不純物を除去して用いる。トロロアオイのネリを十分にきかせた流漉(ながしずき)で、抄紙(しょうし)の工程では、
渋引きの絹紗(きぬしゃ)を張った竹簀(たけす)および檜製漆塗の桁を使用し、簀桁を
激しく揺り動かして素早く漉き、楮の繊維を薄く絡み合わせる。漉き上がった紙は「カゲロウの羽」と称されるほど薄く、
繊維が均一に絡み合って美しく、かつ強靱である。
土佐典具帖紙は、手漉和紙の流漉技術の粋ともいうべきものであり、
芸術上価値が高く、工芸史上重要な地位を占め、かつ、地方的特色が
顕著な工芸技術である。出典:weblio辞書より
上記のような工程を経て、色の付いていた楮が
下記の画像まで真っ白になります。
出典:shojiの伝統産業を巡る旅より
機械で作業すると楮の繊維が切れ切れになってしまい
薄くて丈夫で柔らかい「かげろうの羽」に仕上がらないそうです。
出典:shojiの伝統産業を巡る旅より
↑これが「かげろうの羽」
ここまで透き通っているのに強い和紙なんです。
この和紙を作ることが出来るたった一人の方。
2001年に国の重要無形文化財として指定を受けた
人間国宝の浜田幸雄さんがこれまで受け継いできました。
出典:shojiの伝統産業を巡る旅より
人間国宝の濱田幸雄さん
現在は唯一の伝承者で4代目の
孫:洋直さんにバトンタッチ!したそうです。
出典:youtube 「世界に羽ばたく土佐典具帖紙[コレカラプロジェクト]♯1」より
祖父がたった一人で続けてきた伝統工芸を
幼少の頃より間近で見続けることによって
幼心ながら自然と「自分が継ぐんだ!」という意思が
芽生えたのでしょうね。
優れた環境が生む世界の和紙
危機遺産としても危ぶまれる歴史
和紙は基本的に楮(こうぞ)と呼ばれる桑の木科の皮を利用し
漉き舟の中で叩きほぐした楮の繊維を入れ、そこにきれいな岩清水と
トロロ(トロロアオイの根から出る粘液)を入れて、かき混ぜます。
「すけた」という器具で楮繊維の入った水を手前から向こう側へ
かいていくことで少しづつ繊維を均一に保ったまま集めて
一枚の和紙を作ります。
原料となる楮の木は同町内の吾北産に限定し、
50年以上に亘り、使用するこだわりよう。
明治の頃、文明開化の時代ということもあって
タイプライター用紙として製造使用されていたそうです。
その多くは海外へ輸出されたそうです。
しかし機械化により多くの技能者が仕事を奪われ
1973年頃には、濱田幸雄さんだけが唯一の技能者
となってしまいました。
修復作業にも力を発揮!
このような多難な歴史があり、お孫さんの洋直さんが
もし引き継いでいなければ、伝統の火が消えていたかもしれません。
しかし近年では別の使い方に注目が集まっています。
向こう側が透けて見えるほど薄いのに、丈夫で柔らかく強い紙が
壁画や仏像、虫食い等で傷んだ書物などの修復に利用されているのです。
か細い繊維質の紙を、破れかけた書物や仏像に
特殊な糊付けをし貼り付けると、そのまま透けて透明になり、
そのまま固定化することが出来るのです。
和紙はその大きな特徴として
数千年経過しても朽ちず状態を保ち続けるので
修復した美術品もそのままの姿でい続ける事が可能となります。
また機材の入らない隙間でも、クリーニング薬液に浸した
土佐典具帖紙なら隙間の奥まで届き、汚れを浮き上がらせ綺麗に
することが可能だそうです。
和紙って想像以上に強くて有益なんですね!
実は呼び方で用途も品質も違う
これはちょっとした区別なのですが
手漉きの典具帖紙は「土佐典具帖紙」、機械漉きの
典具帖紙は単に「典具帖紙」と表記され区別されています。
機会漉きの物は主に手工芸用等が多いそうです。
典具帖紙で千切り絵など作ると、凄く繊細な作品に
仕上がるそうで、人気です。
当然、手漉きの「土佐典具帖紙」は
四代目後継者:濱田洋直さんの作品です。
機械漉きは均一の厚みで量産に向いていて厚みの限界は
0.03mmまでですが、、手漉きは手触りが非常に柔らかく
厚みは機械漉きの上を行く0.02mmまで薄くすることが出来るそうです。
機会に出来ない技が匠の技術力と勘で仕上げられる
日本が誇る和紙「土佐典具帖紙」ですが、濱田洋直さん
以外の技術者がいないことが、他の伝統工芸と同様に
深刻な問題となっています。
参考記事:世界に誇れる日本の伝統工芸の現実
まとめ
美濃から明治の初期に伝わり、
独自の発達を得た和紙の技術。
とうとう最後の二人になってしまいました。
伝統工芸の世界は型の伝統といわれ
口伝や師匠直伝による狭い世界での引き継がれています。
もっと後継者を育成するために今後の情報公開や
アーカイブ化等、できる限りのバックアップを官民一体で
行なってほしいです。
- 「土佐典具帖紙」は明治初期頃、
岐阜県南部美濃より伝わった技術が独自の発達を得た。 - タイプライター用紙として輸出されていた。
- 別名「かげろうの羽」と呼ばれ、薄くて丈夫で手触りが大変柔らかい
- 特長を生かして美術品などの修復作業に利用されている。
- 機械漉きを単に「典具帖紙」、手漉きを「土佐典具帖紙」と区別する
- 手漉きは0.02mmまで薄く出来る。
- 吾北町内に自生する楮からのみ生産し、この条件を「土佐典具帖紙」としている。
- 現在四代目が跡を継いでいる。
編集後記
紙漉きが繋ぐ日本古来の伝統工芸。
世界から高い評価を得ています。
願わくば、延々続くことを期待したいです。
でわでわ、また今度。